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  • 2026/10/01公開
  • 2026/10/01更新

真に価値ある内部監査とは~内部監査人が目指すべき姿を考える~

 真に価値ある内部監査とは~内部監査人が目指すべき姿を考える~

内部監査の役割が、従来の「あら探し」から「企業価値を付加する建設的な提言」へと変化しています。本レポートでは、キユーピー株式会社で内部監査室長を務める新村成彦氏をゲストに迎え、内部監査の本質や求められるスキル、組織における役割、そして国際資格であるCIA(公認内部監査人)の有用性について、現場のリアルな経験に基づき語られた内容をお届けします。

登壇者紹介

新村 成彦 氏

新村 成彦 氏

キユーピー株式会社 内部監査室 室長
研究開発、経営企画室、品質保証、リスクマネジメントを経て2022年から現職。CIA取得の目的は、自社グループのガバナンス強化や第1ライン、第2ラインとの建設的な対話、内部監査室内および経営陣と方針および戦略を共有するために、グローバルな内部監査の知識体系が必要だったため。CIA取得は、内部監査の異業種交流会での他社との情報交換を円滑にするための共通の土台となり、自社の監査業務をより効果的にする戦略に繋げている。

Q1. 内部監査とは、どのような業務だとお考えでしょうか。

新村氏: 内部監査は、社長や取締役などの経営陣に成り代わって、社内のさまざまな組織の業務執行状況を確認し、その結果を経営陣に報告する業務です。
「内部」という言葉の通り、社員が自ら社内を自主的にチェックし、不具合があればその組織や経営陣に改善を促します。

特徴としては、独立性を保ちながら組織の運営状況を確認することです。社員でありながらも、経営陣から直接的な圧力を受けないような形を保ちます。
発見された問題が放置されれば、会社が目指す経営目標の達成が困難になり、ステークホルダーに影響が及びます。内部監査は、会社が短期・中長期の目標を達成することに貢献する役割を持っています。また、公認会計士や監査法人による外部監査と連携することも一般的です。

さらに、会社に応じたリスクを対象とする「リスクベース」の考え方が重要です。リスクに対して組織が適切に対応できているかを確認し、不十分な点があれば改善を促します。

Q2. 内部監査が果たすべき役割について、どのようにお考えでしょうか。

新村氏: かつては「重箱の隅をつつく」ようなあら探しのイメージを持たれることもありましたが、そうならないよう意識しています。
企業経営においては、経営目標や経営理念の達成が求められます。独立した立場から、組織がその目標達成に向かって適切に進んでいるかを確認することが、内部監査の果たすべき役割です。

被監査部門との信頼関係を築くためには、「内部監査に来てもらって良かった」と思ってもらえる関係を目指すことが大切です。例えば、現場の組織だけでは解決できない困りごとがある場合、内部監査室がその組織の代弁者となって経営陣に伝え、解決を促します。こうした支援を積み重ねることで、信頼関係が構築されていきます。

ただし、寄り添う一方で、会社や社会のルールを守ってもらうことは大前提です。対応が難しいケースであっても、守るべきベースは変えずにきっちりと対応を求めるというバランスが重要になります。

Q3. 内部監査に求められるスキルを身につけるにあたって、CIA(公認内部監査人)の学習はどのように活かせるでしょうか。

新村氏: CIAの学習過程を通じて、多くのビジネス知識を体系的に学ぶことができました。社会人になって30年以上経ちますが、初めて知るビジネス知識やスキルもあり、非常に有益でした。
ビジネス知識だけでなく、内部監査の手順や実務上のセオリーといった基礎的な部分も身につきます。

さらに、CIAは世界共通の知識体系です。そのため、社外役員や外部監査人との対話において共通言語として機能し、スムーズなコミュニケーションを行える点でも活きています。

私自身は室長として実務を直接行っていませんが、他社からキャリア採用で入社したメンバーと、世界共通の体系的な知識を土台にすることで、戸惑うことなく自社の内部監査業務に適応できていると感じます。

Q4. 新村様がCIA資格の取得を目指されたきっかけを教えてください。

新村氏: 2022年に内部監査室に異動した際、実務経験がないまま室長に就任しました。1年ほど経った頃、他社の内部監査部門の方々と交流する機会があり、自らの知識不足を痛感したことがきっかけです。

他社の方々は、専門的な内部監査の基礎知識体系を深く理解しており、経営陣に響く報告や提案を行っていました。一方で当時の私はCIAの知識がなく、自分のアプローチが上滑りしているのではないかと感じました。
そこで、経営に刺さる内部監査を行うためにCIAの勉強を始め、資格取得を決意しました。

当時は内部監査室内で勉強している人はいませんでしたが、室長である私が率先してチャレンジすることで、現在は複数のメンバーが取得を目指して勉強を始めており、良い影響を与えられたと感じています。

Q5. 実際に取り組まれた学習方法や、モチベーションを維持するための工夫について教えてください。

新村氏: 合格までに2年以上かかり、非常に苦労しました。当初は学習方法が定まりませんでしたが、講師の「毎日勉強しなければダメだ。土日だけの勉強では足りない」という言葉を機に、平日に毎日2時間の勉強時間を確保するように切り替えました。

具体的には、通勤電車の中で約1時間、帰宅後の夕食後に1時間を毎日続けました。オンライン講義でポイントを抑え、テキストでの復習や問題集の繰り返しで知識を定着させました。また、スマホの単語帳アプリに用語を登録し、隙間時間に繰り返し学習したことも効果的でした。

途中で不合格を経験し、モチベーションが下がることもありましたが、室内で新しくCIAの勉強を始めたメンバーの存在が励みになりました。「途中でやめるわけにはいかない」という思いが、最後までやり遂げる原動力となりました。

Q6. 内部監査部門における室員の評価制度について、定性的な評価を含めてどのような体制を意識されていますか。

新村氏: 弊社では、MBO(目標管理制度)に基づいて年に1回評価を行っています。
営業部門のように数値的な目標を設定しにくい部署であるため、年初にそれぞれの役職や期待値に応じた業務目標を個人ごとに設定します。

評価にあたっては、1年間の活動のアウトプットが期待通りであったかという結果だけでなく、プロセスにおいて果敢に挑戦したか、どのような工夫を行ったかという定性的な側面も加味しています。

また、評価を年1回行うだけでなく、日頃から1on1などを頻繁に実施し、目標の進捗を上司がサポートする体制を整えています。

Q7. 新任の内部監査人が目標設定を行う際、どのような観点で設定するのが望ましいでしょうか。

新村氏: 単なる指摘件数ではなく、具体的な課題解決や業務プロセスの改善を目標に置くことが望ましいです。

例えば、現在は生成AIの活用によって監査手法が変化する過渡期にあります。そこで「生成AIを活用して、これまで手作業で行っていた監査業務をシステム化・効率化する」といった具体的な計画を目標として設定します。

「生成AIを使う」という漠然とした内容ではなく、「どの監査段階で、どのような手順にAIを導入し、1ヶ月かかっていた監査業務を数時間に短縮する」といった具体的な計画を立てることで、進捗や成果を適切に評価できるようになります。

Q8. 被監査部門から、監査後に感謝されたようなエピソードがあれば教えてください。

新村氏: 現場において、法律や社内ルールを遵守するためのチェック業務が非常に煩雑で、実務上やりきれないという課題を抱えているケースがありました。

内部監査室としてその課題を把握し、世の中にある外部のサービスやツールを導入することで、チェック業務を大幅に効率化し、楽にルールを守れる仕組みづくりを提案しました。

具体的な案件名は差し控えますが、この提案によってツールの導入が実現し、現場の負担が大きく軽減されました。直接「ありがとう」と言われたわけではありませんが、現場の課題解決に貢献でき、喜んでもらえたと感じています。

Q9. グローバル内部監査基準や社内規程と、現実の監査実務との間で苦慮する場面はありますか。

新村氏: 実務において大きく苦慮している場面はそれほどありません。
現在、弊社はグローバル内部監査基準に完全には準拠しておらず、外部評価も受けていません。今後受ける準備を進めていますが、現時点では準拠できていない項目も多くあると認識しています。現在は、基準に沿うように活動を修正している段階です。

一方で、社内の「内部監査規程」には準拠して活動しています。つまり、社内規程とグローバル基準の間にはまだギャップがある状態です。

監査テーマの選定においては、危機管理部門が作成するリスクマップなどを参考にしながら、内部監査室が独自にリスク評価を行い、テーマを決定しています。取締役会の了承を得て進めますが、独立性を保ちながら自分たちの判断で監査を行えているため、大きな苦労はありません。

Q10. 部内に資格保持者がおらず実務経験も少ない若手が、上司に「CIAを取得したい」と伝える場合、どのようにアプローチすればよいでしょうか。

新村氏: もし私の部署にそのような意欲のある若手がいれば、全面的に賛成し応援します。ですので、あまり難しく考えず、素直に相談してみるのが良いと思います。

ただし、資格の勉強によって日常業務に支障が出ないかという点は、上司として気になるところです。「与えられた仕事はきっちりこなす」という前提をしっかりと示した上で、会社からの支援や受験について相談することが大切です。

※アビタス司会者からの補足情報
実務経験の証明については、試験合格後に上司が簡易的なチェックボックス形式で証明するプロセスがありますが、形式的なものですので、実務経験があれば心配する必要はありません。

Q11. 1回の往査にかける時間や、監査基準・テーマの決定方法について教えてください。

新村氏: 弊社では大きく2つのパターンですが、いずれもリスクベースで監査を実施しています。
1つ目は、事業所を巡回してルールへの準拠性を確認する「準拠性監査」です。これにはあらかじめ決まった基準があり、労務管理から経営的な側面まで、それぞれの領域の基準に則って一月ほどかけて予備調査を行い、小規模な組織では一日、大きな工場では一週間かけて往査します。

2つ目は、1年単位で特定のテーマを決めて実施する「テーマ監査」です。対象となるリスクに対してどの程度まで対応が妥当であるかという観点から、その都度基準を確認して監査を行います。

Q12. 外部監査人や監査役(または監査委員)とは、どのように連携されていますか。

新村氏: 弊社には常勤・非常勤の監査役がおり、特に常勤監査役とは密に連携しています。公式なミーティングを2ヶ月に1回設けているほか、内部監査の報告書や監査役の監査結果を相互に共有しています。

また、被監査部門の負担を軽減するため、同じ年に監査役と内部監査室が同じ部署へ往査に行かないよう、スケジュールの調整や連携を行っています。

外部の監査法人に対しては、内部監査報告書を閲覧していただいているほか、頻度は多くありませんが、必要に応じて合同で往査を実施することもあります。

Q13. CIAの学習において、専門用語などの「暗記」はどの程度必要でしょうか。

新村氏: 私自身は旧シラバスのパート3を受験した際、ITやビジネス知識の専門用語を覚えるためにスマホの単語帳アプリを活用しました。初めて聞く用語も多く、年齢的な覚えづらさもあったため、暗記ツールとして非常に役立ちました。

ただ、実際の試験で暗記した内容がそのままそっくり出題されたかというと、必ずしもそうではありませんでした。暗記は知識の土台づくりや、試験に臨む上での「ここまでやったから大丈夫」という安心材料として機能した側面が大きいと感じています。

Q14. ルールや仕組み自体の問題を経営者に提言する際、好意的に受け止められない場合の工夫はありますか。

新村氏: 私自身も、提言がスムーズに受け入れられない場面に直面したことがあります。
その際の工夫としては、不具合に対応することが会社や組織にどれだけの効果をもたらすのか、逆に放置することでどのような不利益(リスク)が生じるのかを、建設的かつ整然と説明することです。

また、説明する相手を適切に選ぶことも重要です。実務の担当者やその直属の上司だけで解決しない場合は、より上位の経営層にアプローチすることも一つの方法です。内部監査室には、社長や取締役会に直接報告するルートがありますので、そうしたオフィシャルな場面を活用して、組織全体の改善に繋げていくことが求められます。

Q15. これからCIAを目指す方へのメッセージをお願いします。

新村氏: 2つの観点からお伝えしたいと思います。

1つ目は、個人のキャリア形成の観点です。内部監査の業務は、企業経営を広く俯瞰し、自社の強みや弱みを深く知ることができる貴重なポジションです。将来的に経営を担う人材にとっても、重要なキャリアパスになります。また、他部署に異動した場合でも、内部監査で培った経験は現場の仕事に必ず活きます。

2つ目は、社会への貢献という観点です。多くの企業で内部監査が効果的に機能すれば、それぞれの企業が価値を創造し、持続的に成長できるようになります。そうした企業の集合体である社会全体が、より健全に成長していくことに繋がります。

ぜひ内部監査という業務にチャレンジし、より良い社会の実現に向けて共に取り組んでいきましょう。

編集後記

今回のイベントでは、キユーピー株式会社の内部監査室長である新村氏より、現場のリアルな課題や、内部監査人が目指すべき姿について非常に具体的なお話を伺うことができました。

「あら探し」ではなく「価値を付加する」存在であるために、グローバルな知識体系であるCIAの学習が、他部署や社外との共通言語としていかに強力な武器になるかが示されました。実務経験がない中で室長に就任し、自ら率先して資格取得に挑戦された新村氏の姿勢は、多くの内部監査人にとって大きな刺激となったのではないでしょうか。

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