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目次
IFRS任意適用の状況
IFRS導入における新たなチャレンジ
全社レベルでのコミットメント
プロジェクトのチーム編成
IFRS導入における現場の巻き込み
東京証券取引所が2021年9月8日に公表した『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析』によれば、2021年6月末時点で、「① IFRS適用会社」、「② IFRS適用決定会社」及び「③ IFRS適用予定会社」の合計が243社となっており、昨年同月末時点と比較して、9社の増加となっています。分析対象会社総数が3,730社ですので、①から③までの会社数の合計の割合は、全体のわずか約6.5%に過ぎません。しかし、東証上場企業に占める①から③までの会社の時価総額の合計は327兆円となっており、これは東証上場企業の時価総額(742兆円)の44%を占めています。このことからも、いわゆる大企業を中心にIFRSの適用が進んでいることが分かります。
業種別には、情報・通信業(36社)、サービス業(32社)、電気機器(27社)、医薬品(19社)、輸送用機器(16社)、機械(16社)といった業種に多くIFRS適用会社がみられますが、IFRSを導入する企業が出始めた2010年頃は、製薬業や商社が率先してIFRSを適用しました。これは、M&Aを頻繁に行うこれらの業種においては、のれんの償却負担の軽減や買収先の企業と会計基準を合わせること等が目的となっていたからです。しかし今日では、資金調達の多様化やコーポレート・ガバナンスの強化、経営管理の高度化を背景に、幅広い業種においてIFRS適用企業が見られます。過去5年間でIFRS任意適用企業数やその伸び率は鈍化しつつあるものの、IFRS導入によるメリットを見込んで、今後も安定的にIFRS任意適用会社は増加するものと見込まれています。
ところで、IFRSを導入する際には、そのメリットを享受するために、単なる制度対応といった側面だけでなく、必要に応じて業務プロセスの見直しやグループ経営管理の仕組みの構築といった新たなチャレンジが求められることがあります。これらは、当該企業に追加的なコスト負担を求めることになるため、IFRS導入を成功させるためには、効果的及び効率的なIFRS導入プロジェクトの遂行が必要と考えられます。特にグループ経営管理の高度化を目指す場合、IFRS導入の深度にもよりますが、財務会計だけでなく、管理会計のレベルにもIFRSを導入することが求められます。IFRSの導入によって、管理会計レベルでも連結グループ全体の会計方針の統一、勘定科目体系の整備等を行い、より透明性や比較可能性の高い数値に基づく計画と実績の報告が可能となると考えられています。また、グローバルに展開する企業においては、全世界でIFRSに統一された実績数値を基礎として、グループ全体のKPI(Key Performance Indicator)やKGI(Key Goal Indicator)の設定が可能になります。
単なる制度対応だけであれば、IFRS開示が可能な体制の整備にフォーカスするだけで、予実管理といった管理会計のレベルは従来通りローカル基準でも問題ないと思われます。その場合、IFRS導入時の論点の内容や数によりますが、経理部を中心とした決算・財務報告プロセスに関連する部署が中心となって、IFRS導入を進めることになります。もちろん、IFRS導入に伴う影響度調査やポジション・ペーパーの作成にあたっては、取引の実態を確認するために、経理部以外の部署へのヒアリング等が発生することになりますし、IFRSに対応できる人材が不足する場合は、外部のコンサルタントを利用することになります。しかし、経理部以外の部署を巻き込んだ全社的なプロジェクトチームの設立が求められることは、それほど多くないかもしれません。
一方で、IFRS導入が単なるIFRS開示を目的とするだけでなく、予実管理へのIFRS展開や、もっと高度化した事業別・セグメント別連結業績管理等へのIFRS展開にまで拡大する場合、もはや経理部だけでIFRS導入することは不可能となります。その場合、全社レベルでの目標設定や業務プロセスの見直し、新たなシステム投資が発生することがあるため、社内でプロジェクトチームを立ち上げ、経理部や経営企画部、情報システム部を含む多数の部門や関係者を巻き込んだ全社的な取り組みが必要となります。もちろんグローバルに展開する企業においては、すでに海外の拠点でIFRSないしIFRSと同等の会計基準を財務会計レベルで適用しているかもしれません。しかし、その拠点の関係者もプロジェクトチームに参加し、管理会計レベルまでのIFRS導入を推進する必要があります。
ところで、このような全社的な取り組みには、多くの困難が伴うことが多いと言われています。特にこのレベルでのIFRS導入の場合、IFRS導入のスコープを幅広くとって目標設定するため、時としてプロジェクトがうまく進まず、財務会計レベルにスコープを縮小するインセンティブが社内に働くケースがあります。その結果、終わってみれば管理会計がうまく機能しないケースも散見されますので、プロジェクトの成功のためには、CFO等のプロジェクトチームの意思決定者が、高い目標設定とそのコミットメントを継続的に維持する必要があります。
次にプロジェクトチーム編成におけるポイントですが、財務会計レベルの導入と管理会計レベルの導入では適用範囲や適用のあたってのルールの深度や粒度が異なるため、一般的には別チームで導入を進めることが良いとされています。しかしながら、別チームがパラレルで作業進めることにより、両社での整合性がとれなくなることがありますので、同じソースデータを共有するケースなどは、十分に作業内容のすり合わせをする必要があります。また、片方の作業の遅延が、もう片方の作業に影響を及ぼすことがあるため、進捗管理に関する情報共有が大事になります。したがって、両チームともに現場の責任者がリーダーとなって、十分なコミュニケーションをとることが必要になります。
ここで問題になるのが、プロジェクトのメンバーを専任とするか兼任とするかです。専任とした場合、プロジェクト推進のスピード感が維持される可能性が高く、プロジェクトが遅延するリスクは低くなります。しかし、多くの会社で豊富なIFRS人材を抱えているわけではないので、日常業務に何らかの影響が出ると想定されます。一方、メンバーを兼任とするケースでは、日常業務の傍らプロジェクトに従事するため、繁忙期等には作業が遅延するリスクがあります。現実的には、多くのプロジェクトのメンバーが兼任となるケースが多いと考えられますが、その場合は、外部のコンサルタントを有効に活用し、状況によっては、進捗管理も外部のコンサルタントに任せることが必要になると思われます。しかし、管理会計レベルの導入の場合、企業側の人材が持つ知識や経験が最も重要になるため、外部のコンサルタントにすべての作業を丸投げするのは避けるべきと思われます。
プロジェクトの成功のためには、現場の巻き込みが大事です。しかし、多くの事業部門や子会社が地理的に離れている企業においては、本社のコミットメントが現場にうまく伝わらないケースがよくあります。親会社と同じ業種や組織体制をもっているケースであれば問題は少ないですが、親会社と異業種であるとか、組織体制が全く異なる拠点の場合、プロジェクトへの現場の巻き込みに苦労するケースが散見されます。それに加えて、海外子会社の場合は、日本人の駐在員が派遣されていたとしても、少人数で全社的な管理業務を担当しなければならないことが多く、プロジェクトへ注力することが難しくなる傾向にあります。その結果、経営管理要件の認識が共有化できていないことが後で発覚し、プロジェクトが後戻りとなるリスクがありますので、定期的な成果物の確認や議事録のレビューなど、現場との密なコミュニケーションが成功のカギとなります。そのためには、それぞれの拠点のリーダーは、現場に精通した優秀な主任・係長クラスとし、可能であればIFRSの知識を持った人材を登用することが望ましいと思われます。
IFRSを学ぶ方法として、IFRS基準書を読みこむのが王道かもしれませんが、英文基準書の独学は困難を極めます。短期間で効率よくIFRSの原理原則を学習いただくためには、アビタスのIFRS講座がおすすめです。
講座には、実務家講師によるeラーニング講義や、基準書の内容を分かりやすく書き起こしたテキスト(基準書の英文も併記し、日本基準との差異も解説)、学習質問サービスなどが含まれ、IFRSの原理原則を短期間で学ぶことができます。
岡田 博憲
(おかだ・ひろのり)ひびき監査法人 代表社員 公認会計士朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)、
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFAC(国際会計士連盟)
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