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帳簿価額100、割引前の将来キャッシュ・フロー110、使用価値80、売却による回収額70。 この四つの数字を同じ資産グループに置くと、IFRSでは20の減損損失を認識する一方、日本会計基準ではこの時点で減損損失を認識しません。
同じ事業を見ていても、損失が損益計算書に現れる時期はずれます。 差を生むのは、IFRSが「考え方を重視する基準」で、日本基準が「細かなルールを重視する基準」だから、という一言ではありません。 認識の条件と測定方法が異なるためです。
まず、先ほどの数値を並べます。 単位はすべて同じとします。
| 項目 | 金額 | 判定での役割 |
|---|---|---|
| 帳簿価額 | 100 | 現在の貸借対照表上の金額 |
| 割引前の将来キャッシュ・フロー | 110 | 日本基準の減損認識判定で使用 |
| 使用価値 | 80 | 利用を続ける場合の価値 |
| 売却による回収額 | 70 | 売却する場合の価値 |
IAS第36号では、帳簿価額が回収可能価額を上回るとき、その差額を減損損失として認識します。 回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のうち高い方です。
この例では80と70を比べ、高い方の80が回収可能価額になります。 帳簿価額100との差額20が減損損失です。
日本基準には、減損損失を測定する前に認識の判定があります。 資産グループから得られる割引前の将来キャッシュ・フロー総額と帳簿価額を比べます。
この例では110が帳簿価額100を上回るため、認識の判定を通りません。 使用価値が80であっても、この時点では減損損失を計上しないことになります。
数値例は仕組みを切り出したものです。 実際の結論は、資産をどの単位でまとめるか、将来キャッシュ・フローをどう見積もるか、売却価値をどう測るかによって変わります。
参考:IFRS Foundation「IAS第36号」/企業会計基準委員会「固定資産の減損に係る会計基準」
IFRSは国際財務報告基準、日本会計基準は日本の企業会計基準です。 主要な違いを、会計処理を調べるときの軸に沿って整理します。
| 論点 | IFRS | 日本会計基準 |
|---|---|---|
| 基準の読み方 | 原則と目的を踏まえ、取引の経済的実質に即して判断する | 基準本文、適用指針、実務上の取扱いを確認する |
| 固定資産の減損 | 帳簿価額と回収可能価額を比較する | 割引前キャッシュ・フローで認識を判定し、その後に回収可能価額まで減額する |
| 減損の戻入れ | のれん以外は、一定の場合に戻入れを行う | 戻入れを行わない |
| のれん | 規則的に償却せず、少なくとも毎年減損テストを行う | 現行基準では20年以内に規則的に償却し、減損も検討する |
| 研究開発費 | 研究支出は費用。開発支出は要件を満たした時点以後に資産計上する | 研究開発費は発生時に費用処理する。ソフトウェアには別の取扱いがある |
| 財務諸表の表示 | 財政状態計算書を表示する。日本基準の経常利益と同じ小計の表示要求はない | 貸借対照表を表示し、損益計算書では経常利益を用いる |
この表にも例外や適用条件があります。 個別取引では、表の結論をそのまま仕訳に置き換えず、対象基準の範囲から確認します。
IFRSは原則主義、日本基準は細則主義と説明されます。 入口としては便利ですが、これだけで資産を認識するか、いくらで測るかは決まりません。
IFRSにも認識要件や測定ルールがあります。 日本基準でも、契約条件や取引の実態を読まずに数値を当てはめることはできません。 両者を比べるときは、認識と当初測定をまず分けます。 その後に事後測定と表示・開示を確認する方が、実務に近づきます。
たとえば「IFRSは時価、日本基準は取得原価」と覚えると、個別基準で取得原価を使う場面や、公正価値を使う条件を落とします。 短い標語は地図にはなっても、仕訳の根拠にはなりません。
利益測定の考え方を詳しく確認したい方は、「IFRSの資産・負債アプローチとは」をご覧ください。 資産や負債の定義を先に置く考え方と、公正価値で測定するかどうかが別の論点であることを整理しています。
企業買収で生じるのれんは、買収先の将来収益力などに対して支払った金額のうち、個別の資産や負債に配分されなかった部分です。 買収後の費用の出方は、IFRSと日本基準で異なります。
IFRS第3号では、のれんを規則的に償却しません。 IAS第36号に基づき、のれんを資金生成単位またはそのグループに配分し、少なくとも年に一度は減損テストを行います。 のれんに計上した減損損失は、その後に業績が回復しても戻し入れません。
現行の日本基準では、のれんを20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法などの合理的な方法で規則的に償却します。 減損の兆候があれば、固定資産の減損手続も必要です。
2026年には、企業会計基準委員会がのれんの非償却導入などについて公聴会と意見聴取を行いました。 これは検討の段階であり、現行の償却処理が変更済みという意味ではありません。 決算時には、その時点の公表基準を確認してください。
のれんの基本は、「のれんとは?会計処理や償却、減損についてわかりやすく解説」でも扱っています。
IAS第38号では、研究局面の支出を発生時に費用処理します。 開発局面に入った支出には、技術上の実行可能性や完成・使用・売却の意図などの要件があります。 将来の経済的便益、必要な資源、支出を信頼性をもって測定できることも必要です。 すべてを満たした時点以後の支出を無形資産として認識します。
日本基準では、研究開発費を発生時に費用処理します。 ただし、ソフトウェア制作費には目的や完成時点に応じた別の取扱いがあるため、「日本基準では開発関連支出を一切資産にしない」とまではいえません。
参考:IFRS Foundation「IAS第38号」/企業会計基準委員会「研究開発費等に係る会計基準」
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、2027年1月1日以後に開始する事業年度からIAS第1号を置き換えます。 損益計算書に営業損益などの小計を設け、経営者が定義した業績指標の開示と、情報の集約・分解に関する要求を定めます。
IFRSの財政状態計算書は、日本基準の貸借対照表に当たります。 連結財務諸表でも、この対応関係は変わりません。 一方、IFRSには日本基準の経常利益と同じ名称・定義の小計を表示する要求がなく、IFRS第18号の適用後も経常利益が新設されるわけではありません。
会計方針の差だけを追っていると、同じ数値が財務諸表のどこに置かれ、どの指標として説明されるかを見落とします。 IFRSへの移行や比較分析では、認識・測定と表示・開示を別々に点検する必要があります。
冒頭の減損例で結論を分けたのは、二番目の認識条件でした。 この順番を保つと、「IFRSらしさ」「日本基準らしさ」という曖昧な印象を、確認可能な基準差へ置き換えられます。
IFRSの特徴を広く確認したい方は、IFRS(国際会計基準)とはもご覧ください。 基準差を実務で扱うには、個別基準の知識に加え、取引を分解して判断する練習が必要です。
IFRSと日本基準の違いを、体系的に学びたい方へ
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